明治維新と坂本龍馬
今回は、平尾道雄『明治維新と坂本龍馬』(新人物往来社、1985年)という書籍を紹介します。
「坂本龍馬研究の第一人者」と言われていた平尾道雄氏の死後、雑誌や新聞などにすでに発表されていた平尾氏の文章や講演録を収めたものになります。あとがきを書いているのは広谷喜十郎氏です。
平尾道雄『明治維新と坂本龍馬』に収録されている論稿を、いくつか紹介してみましょう。
まずは、大正15年に発行された雑誌『中央史壇』第79号に掲載されていた「坂本龍馬」と題された文章が、『明治維新と坂本龍馬』に再録されていることを紹介しておきましょう。この論稿は『中央史壇』第79号の特集「幕末明治人物史論」の一編として書かれたもので、坂本龍馬の小伝です。「井上道雄」の名義で執筆された、平尾氏の処女論文でもあります。
同じく、平尾氏の初期の業績の1つである、「幕末浪人運動雑観」という論文も、『明治維新と坂本龍馬』に収録されています。昭和3年に発行された『中央史壇』第97号に掲載されていたものです。幕末の浪人集団に興味を持って幕末維新史の研究を始められた平尾氏のスタンスを知る上で、面白い論文だと思います。
「岡田以蔵随考」という文章も収録されています。雑誌『日本歴史』第326号(1975年)に発表された文章で、幕末の人斬りとして有名な岡田以蔵の略伝です。非常に短い文章ではありますが、岡田以蔵の生涯を簡潔に記してくれていますので、岡田以蔵の実像を知りたい方には有益だと思います。
「龍馬と勝海舟書翰」と題された文章も、『明治維新と坂本龍馬』には収録されています。1958年発行の雑誌『土佐史談』第93号に発表された文章の再録ですが、勝海舟の庇護下にいた頃の坂本龍馬を考える上で重要な勝海舟書簡を紹介している文章です。
文久3年8月18日政変の後、土佐藩は勝海舟の庇護下にいた坂本龍馬ら土佐脱藩者に対して帰国命令を出しますが、それに対して勝海舟が、龍馬の帰国命令を猶予してほしい旨を土佐藩の江戸藩邸にいる徒目付に宛てて記した12月6日付書簡が紹介されているのです。また、それを受けて土佐藩の江戸藩邸留守居役が海舟の要求を断った拒絶書の写しと、事の顛末を江戸藩邸から土佐藩の重役に報告した書簡も紹介されています。
これらの書簡は、講談社版『勝海舟全集』の編集に携わり、勝海舟研究者として名高い松浦玲氏も原文書を読んだことがない旨を、著書『検証・龍馬伝説』(論創社、2001年)に記しています。その意味でも、平尾道雄氏の「龍馬と勝海舟書翰」は貴重と言えるかもしれません。ちなみに、これらの書簡は宮地佐一郎編『坂本龍馬全集』(光風社、1978年)にも掲載されています。
そのほかにも『明治維新と坂本龍馬』には、『土佐史談』、『高知新聞』、『歴史読本』、『歴史と人物』、『司馬遼太郎全集』月報、『毎日新聞』、『高知県人』、『日本古書通信』、『日本公論』など、各種媒体に発表された平尾道雄氏の論稿が再録されています。どれも非常に面白いです。私は平尾道雄氏の文章が好きなので、平尾氏の執筆生活の初期から晩年に至るまでの論稿が収録されている『明治維新と坂本龍馬』という本を、重宝しています。
ちなみに、私だけかもしれませんが、平尾道雄氏が訳者として名前を連ねているマリウス・B・ジャンセン氏の『坂本龍馬と明治維新』(時事通信社、1965年)と混同しそうになることがあるので、注意が必要です。
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