一歴史学者の歩み
だいぶ前に読んだ、家永三郎『一歴史学者の歩み』(岩波現代文庫、2003年)の紹介。家永三郎氏は2002年に89歳で亡くなった歴史家ですが、一般的には教科書裁判で名前が知られている方ですね。その家永氏の自伝です。
岩波現代文庫版『一歴史学者の歩み』は、『一歴史学者の歩み 新版』(三省堂、1977年)を部分的に修正した、『家永三郎集』第16巻(岩波書店、1999年)所収の文章を底本にしたものだそうです。未発表原稿「私と天皇制・天皇」を付篇として収録し、さらに鹿野政直氏の解説が付いています。
家永三郎氏の生涯と、教科書裁判に至るまでの経緯が詳しく記されていて、興味深く読むことができました。また単に面白いだけではなく、家永氏自身が「あとがき」で述べるように、「考えようによっては、私の貧しい体験も、それはそれなりにやはり一つの歴史的事実であるし、私が生きてきた半世紀の歴史を知ろうとする方々に、何ほどかの資料を提供することにならないともかぎらない」という面での価値もあると思います。
ところで、家永氏は戦後まもなくの頃、天皇制や明治憲法を賛美するような文章を公にしていたにもかかわらず、後には天皇の戦争責任を論じるような著作を書いたりしているため、「変節」の謗りを受けることもしばしばあるようです。
鹿野政直氏の解説によれば、付篇として収録された「私と天皇制・天皇」は、「変節」との誹謗に反撃するため、自身の天皇観の変遷をきちんと書いておきたいという目的から書かれたらしいです。その観点で読んでいくと、確かに言い訳がましく見える部分もあります。
しかし、いずれにしても家永三郎氏は戦後を代表する歴史家の1人です。鹿野政直氏の言葉を借りれば、「二十世紀の日本の歴史学界で家永は、傑出した思想史家として、また日本史の全領域にわたる視野をもつ歴史家として不抜の位置を占めている」人物です。
それだけではなく、教科書裁判でも有名な家永三郎氏の自伝とあって、その内容は非常に面白く、貴重な証言も含まれています。そのため、大変興味深く読むことができました。個人的には教科書裁判の話もさることながら、筑波大学創立をめぐる話も面白かったです。
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