フルベッキと海援隊と「フルベッキ写真」
フルベッキとは、幕末維新期の長崎で約10年を過ごし、その後も約30年間日本に住んでいたオランダ人宣教師です。フルベッキは、幕府が長崎に設立した済美館と、大隈重信や副島種臣などが中心となって佐賀藩が長崎に設立した致遠館で、日本の人々に英語などを教授していました。
そんなフルベッキの、長崎時代の交友関係を詳細に分析したのが、村瀬寿代氏の論文「長崎におけるフルベッキの人脈」(『桃山学院大学キリスト教論集』第36号、2000年)です。村瀬氏は、勝海舟や横井小楠の研究で知られる思想史家・松浦玲氏の教え子にあたる研究者です。
学術論文を検索することができ、その一部をPDFで公開している「CiNii 論文情報ナビゲータ」(国立情報学研究所の提供)のことは、このブログでも何度かご紹介しました。今回の村瀬氏の論文も例によって、PDFで閲覧することが可能です。下記のリンクをクリックすれば、PDFで村瀬氏の論文が開きます。
興味のある方には上記リンクから村瀬氏の論文を直接お読みいただくのが一番なのですが、私が特に興味のあった部分だけ手短にご紹介しましょう。
済美館の学頭を務めていた時期のある何礼之(が・のりゆき)という人物は、長崎奉行の援助も受けつつ長崎に私塾を開いていました(文久4年開設)。そして何礼之はそれ以前からフルベッキとかなり緊密な交流があり、その縁でフルベッキに私塾の授業も頼んでいたようです。つまり、何礼之の私塾に入っていた人物は、フルベッキの教えをも受けていた可能性があります。
そして、何礼之の私塾の慶応元年における塾生名簿によると、郵便制度を創設した前島密や、明治4年の岩倉使節団の副使となる山口尚芳に混じって、林謙三(安保清康)や陸奥宗光・白峰駿馬・野村維章などの人名も見えます。坂本龍馬に興味ある人間としては、見過ごせない人名です。
林謙三(安保清康)は幕末期には薩摩藩海軍の一員として活躍していた人物で、坂本龍馬と親しかった人でもあります。龍馬が林謙三(安保清康)に送った書簡が何通か残っていますし、林の自伝である『男爵安保清康自叙伝』にも龍馬の話が出てきます。
陸奥宗光・白峰駿馬・野村維章の3人は、亀山社中と海援隊で龍馬と一緒に活動した人物たちです。野村は「野村辰太郎」の名前でご存知の方が多いかもしれません。彼らが何礼之の私塾に入っていたということは、フルベッキとの関わりも可能性として想定できるわけです。
特に白峰は、明治になってから同じく海援隊の隊士だった菅野覚兵衛と共に米国ラトガース大学に留学していますが、当時ラトガース大学に日本からの留学生の大部分を紹介していたのがフルベッキだったそうです。したがって、菅野にも何らかの形でフルベッキとの関わりがあるのかもしれません。それらのことから村瀬氏は、坂本龍馬や中岡慎太郎が、フルベッキとも関わりを持っていた可能性を指摘しています。
ところで、フルベッキと言えば、「フルベッキ写真」と呼ばれる群像写真の話題で名前をご存じだという方もいらっしゃるのではないでしょうか。西郷隆盛・大久保利通・伊藤博文・横井小楠・江藤新平・中岡慎太郎などなど、錚々たる人物が写っていると噂されている写真です。
私も過去の記事「ニセモノにご注意~幕末の志士の集合写真~」で、その写真について話題にしたことがありますが、村瀬氏はその写真について最も詳しく検討されている研究者です。村瀬氏の論文「長崎におけるフルベッキの人脈」は、この写真の問題も詳しく分析しています。
村瀬氏の結論を述べれば、写真には西郷隆盛や中岡慎太郎は写っていません。そもそも村瀬氏によれば、問題の写真は明治になってから撮影されたものなので、慶応3年に死んでいる中岡慎太郎が写れるはずはないのです。ただ、大隈重信・岩倉具定・岩倉具経は写っているようです。詳細について興味ある方は、村瀬氏の論文をお読みください。下記のリンクから読むことができます。
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コメント
こんにちは。
フルベッキの論文紹介有難うございます。
さっそくダウンロードして参考にさせていただきます。
自宅に居ながらにして、遠方の論文を即座に入手できるのは楽ですね。
また小生のブログで書いた前島密の記事をさらに詳しく補強するような内容で、大変勉強になりました。
有難うございます。
投稿 桐野作人 | 2008年1月13日 (日) 15時58分
>桐野作人さん
コメント、ありがとうございます。
「さつま人国誌」、読ませていただきました。
今回も大変面白かったです。
また、私はこの記事を書いてから「さつま人国誌」を読んだのですが、重なる内容のことが偶然書かれていて、驚きました。
ここで紹介した村瀬さんの論文には、桐野さんが書かれたことを補強するような内容が確かに書かれていますね。
思いがけずお役に立てたようで、非常に良かったです。
投稿 パルティアホースカラー | 2008年1月13日 (日) 20時27分