定本 坂本龍馬伝―青い航跡
松岡司『定本 坂本龍馬伝―青い航跡』(新人物往来社、2003年)は、雑誌『歴史読本』に連載された文章を1冊にまとめたもので、950ページに及ぶ坂本龍馬の伝記。最新の龍馬研究の動向(もちろん、出版された段階でのもの)も踏まえて叙述された力作です。坂本龍馬に興味のある方なら、とりあえず読んでみて損はない著作だと思います。最近、読み返してみました。
読んでいて共感できたのは、薩長同盟仲介以後の龍馬に関する、以下の記述。おおむね、私の認識と同様で、納得できるものでした。赤文字で引用してみます。
龍馬への幕府の対応は、用兵建白を基本としていたはずである。龍馬は慎太郎とともに薩長同盟を成立させた。新しい日本をつくるための布石で、したがってこのあと生じた薩長路線とか土佐路線とかは問題の本質ではない。しいて言えば、薩長土三藩の協力による新しい日本づくりが最良だった。そしてその最良の策にいちばん近いものが、武力をうしろ盾とした大政奉還建白策だった。いわば薩長路線と土佐路線の中道といえ、これが実現してこそ三藩の協力がなる。
(754ページ)
また、龍馬殺害の近江屋事件の犯人についても、実行犯を見廻組とすることは当然として、見廻組の佐々木只三郎に指令を下した人物のラインを会津藩主・松平容保―手代木直右衛門と想定しているのも、もっとも妥当な判断だと私には思えます。そのほかの説について否定的に述べている次の記述も、納得できるものでした。
龍馬暗殺についてはこのほか、土佐藩へ身柄をうつされた宮川助五郎の一味といった内紛がらみの見方や、あるいは薩摩のしわざだろうといった情報がないでもない。しかしいずれも第三者的藩の風聞報告にすぎず、とてもそのまま採用はできない。
数年前に京の井口家が世にだした新海援隊士佐佐木多門の書状が、薩摩黒幕説の史料のように解釈されている。奇妙な見方で、ふつうに読めば犯人探索にたいする薩摩の好意的な処置を述べているとしかとれない。
(869ページ)
そのほか、松岡氏の著書の大きな特徴の1つとして、松岡氏が「あとがき」で述べているように、「執筆にあたっては、まず既存史料集の史料批判に留意してあらためて年次を特定している」(913ページ)ことが挙げられます。『坂本龍馬関係文書』や『坂本龍馬全集』などに収録されている龍馬書簡のうち、いくつかの年次を訂正しています。
ただその際、年次比定の考証を詳しく書かず、『坂本龍馬全集』などの年次が間違っていると述べるだけの部分が少なくないように感じました。もう少し、詳しい考証過程を記してほしかったと思います。また、もう1つ欠点を挙げるとすれば、幕末維新史の最新の研究成果が反映されていないように感じる部分があったことです。
しかし、950ページの力作なので、非常に読み応えがあります。龍馬に関する史実において、あまり知られていないことも掘り起こしているので、龍馬に興味ある方なら興味深く読める著作だと思います。
ちなみに松岡司氏は、高知県佐川町立青山文庫の館長をされている方。そのほかの著書として、『武市半平太伝―月と影と』(新人物往来社)や『中岡慎太郎伝―大輪の回天』(新人物往来社)などがあります。また青山文庫とは、土佐出身の志士で宮内大臣を務めた田中光顕の寄贈コレクションを中心に、多数の幕末維新史関係資料を所蔵・展示している施設です。
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