幕末政治史研究の現状と課題
先月に刊行された雑誌『歴史評論』第691号(2007年11月号)は、「2007年度歴史学の焦点」という特集を組んでいます。その一環として、友田昌宏氏の「幕末政治史研究の現状と課題」という論稿が掲載されています。
友田氏の論稿は、1980年代以降から最近に至るまでの幕末政治史の研究状況を概観しようと試みたもの。1980年代以降とは言っても、それ以前の研究との関係性もしっかり見据えた上で、1980年代以前と以後の研究では何が変わったのかまで、簡潔ではありますが的確に記しているのが特徴です。
要するに友田氏の論稿は、幕末政治史の研究史を大まかにまとめたものですが、大変手際がよく、重要な論文や主要と思われる研究書を数多く紹介してくれるので、非常に勉強になります。「もっと、この文献も紹介してほしい」とか「この論点にも触れてほしかった」とか感じる部分もありますが、それは紙幅の関係で仕方のないこと。友田氏の論稿は、幕末政治史研究の現状を概略的に知るためには充分すぎるほどの内容を備えていると思います。
個人的に首肯できる指摘も結構多くて、例えば「公武合体」には幕府(将軍)の下に諸侯会議を置こうとする路線(一橋慶喜の路線)と、大名と将軍が対等な関係になる諸侯会議を開こうとする路線(薩摩は次第にこれにシフト→王政復古へ発展する)の2種類があって、それら2つの路線は必ずしも相容れないものではなく、お互いに妥協を重ねながら政局が進展するため、幕末政治史は複雑な推移をたどるという指摘。
それに関連して、前者の慶喜路線の「公武合体」は天皇原理を正統性の根拠とし、後者の薩摩路線「公武合体」は「公議」原理を正統性の根拠としたものの、双方ともに相手が依拠する原理を否定することができなかったため、維新政権はその2つの正統性原理を有しているという指摘。あくまで個人的にですが、このあたりの指摘に共感できる部分も多かったです。
最後に友田氏は幕末政治史研究の課題をいくつか挙げています。例えば、実証が深化したがゆえに、幕末政治史研究者が、維新期以降の時代まで視野に入れて研究する余裕を失っている点。またあるいは、政治史研究が外交史・経済史・文化史などとの連携が欠けている点などです。これらの問題点は友田氏以外の研究者も指摘していることですし、実際そのとおりだと思います。
そこで友田氏は、上記の問題点を解決しつつ幕末維新史を総体的に理解するため、共同研究を積極的に行うことと、多様な立場の人物を研究する人物史を有効に利用することを提唱されています。個人的には同意したい気持ちです。
友田氏は共同研究の方法として、論文集を刊行するにあたって複数の執筆者が何の連携もなくバラバラに個別の論文を書いても、それは論文の寄せ集めにしかならない、だから複数の執筆者が論文執筆前にあらかじめ議論して、論点を整理してから論文執筆に取り組むべきだと主張しています。それができれば、個々の論文の質も向上すると思いますので、私は賛成です。なかなか難しいとは思いますが。
共同研究については、友田氏の論文をお読みになった桐野作人氏も、重要性をブログで指摘しています。特に、近年の研究で発掘が進んで人物像が鮮明になった人物も多いので、新たに網羅的な人名辞典を作れば有益だという指摘です(桐野作人氏のブログのコチラの記事(コメント欄)を参照)。私も同感です。
友田氏の論稿は内容が豊富で重要な指摘も含まれていますが、平易な文章なので読みやすいです。雑誌『歴史評論』は大きな書店に行けば販売しているケースもありますので、幕末政治史に興味のある多くの人にぜひ読んでもらいたいです(研究者に限らず)。
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» 幕末を復習中 [半身の月]
だそうです、皆様。
近頃、来年の作品「北天幻桜〜土方雪想夢〜」に向けてニューヨーク以来久しぶりに新選組や土方歳三に関する読書や情報収集を再開しています。のめりこみ過ぎるのは役者としてよろしくないとよく言いますが、私の場合初めて「さくらのごとく〜新選組桜真説〜」の顔合わせにさくらさくらカンパニーの稽古場へ行った時、「新選組派?龍馬派」と問われ「は・・・?」と答えた日本史オンチな私でしたから、がんばりすぎるくらいでちょうどいいと思います。
で、今日もいろいろ幕末の様々なことをネットサーフィンで収集し... [続きを読む]
受信: 2007年11月16日 (金) 10時55分



コメント
こんにちは。
この論文は先行研究の概括として、とても有用ですね。
とくに以下の部分ですが、
>前者の慶喜路線の「公武合体」は天皇原理を正統性の根拠とし、後者の薩摩路線「公武合体」は「公議」原理を正統性の根拠としたものの、双方ともに相手が依拠する原理を否定することができなかったため、維新政権はその2つの正統性原理を有しているという指摘。
幕末期の諸闘争を「天皇」原理と「公議」原理の併存・確執から見ていくというのは高橋秀直氏も採用された方法論でしたね(果たして、最初の提唱者は誰なんでしょうか? 不勉強で知りません)。
それまで「天皇」原理に固執していた慶喜が大政奉還で「公議」原理を許容すると認めたことにより、一種の雪崩現象が起きて優位に立ちました。一方、薩摩藩討幕派は慶喜攻撃の根拠を失い、幕府積年の罪を問うという限定的な「反正」批判しかとれなくなりました。
慶喜の政策転換は対外的には(とくに対朝廷、対薩摩)非常に有効でしたが、慶喜にとって誤算だったのは、むしろ敵には身内の中にいたことでしたね。
会津藩など家門大名や譜代門閥層・保守派の旗本層などはあくまで「天皇」原理にこだわり、慶喜が「公議」原理に接近したことを日和見だと突き上げました。
この「内なる敵」を制御できなかったことが、鳥羽伏見戦争の開戦につながり、ひいては慶喜の敗北を決定的にしたと思われます。
最近の政局でも、大連立にこだわった某党首がいましたが、敵対党派との協調には成功しそうでしたが、身内の総スカンを喰らいましたね。誰もが驚く突然のコペルニクス的転換は、まるで慶喜の姿を見るようです。
駄弁になりました。ではまた。
投稿 桐野作人 | 2007年11月16日 (金) 16時58分
>桐野作人さん
コメント、ありがとうございます。
友田氏の論文は有用ですよね。これから幕末政治史の勉強を本格的にやりたいと思っている学生などに、今回の友田氏の論文と、そこで紹介されている先行研究をとりあえず読むよう推奨する…といったこともできそうです。
「天皇」原理と「公議」原理の問題を最初に提唱したのは私もわかりません。「公議」原理だけなら尾佐竹猛さんとか色々おられますが。近いところではやはり、高橋秀直氏ですよね。
慶喜が大政奉還したのは、確かに「公議」原理を許容したということになりますね。その結果、討幕派の中にも慶喜が「公議」に沿っていると見る者が出てきて、慶喜を支持する声が高まるにつれて、大久保などは慶喜に従来の罪への「反正」を求めることで慶喜を攻撃するしか方法がなくなるわけですよね。
慶喜は悩みに悩んで大政奉還の決断をしたようですが、やはり「内なる敵」を制御できるかどうかも気にしていたのかもしれませんね。慶喜の意見に賛成だったのは永井尚志ぐらいだったというぐらいですしね。「内なる敵」を制御できていれば、鳥羽伏見の開戦に至らずに済んだような気がします。そんな慶喜の姿は、言われてみれば某党首の境遇に似ている気もします。
投稿 パルティアホースカラー | 2007年11月16日 (金) 20時58分
論文集を刊行するにあたって複数の執筆者が何の連携もなくバラバラに個別の論文を書いても、それは論文の寄せ集めにしかならない、だから複数の執筆者が論文執筆前にあらかじめ議論して、論点を整理してから論文執筆に取り組むべきだと主張しています。
に反応してしまいました。
協調がまったくないままに、とある出版社で「○○のすべて」なんて本がよく作られてますが、ある文章では「そうだ」となり、ある本では「違う」と、正反対な論法さえ存在する書籍さえある始末で、嫌気が刺します。
こういったものを書籍にだす場合、市町村史のように、たがいに議論に議論を重ねて記述する必要があるのに、各々自分の好き勝手に書いていれば、読者に総スカンを喰うのは当然の原理と考えます。
友田氏のように、それをまとめ、総括する苦労が最近わかる昨今ですが、本当に大変な作業だと感服いたします。
管理人さんの努力も当然ですがね。
投稿 あさくらゆう | 2007年11月17日 (土) 08時24分
>あさくらゆうさん
コメント、ありがとうございます。
私などは読んだ論文や存在を知った書籍について、「こんなものがあったよ~」と紹介しているだけですが、友田氏はきっと苦労されたでしょうね。たくさん出ている研究を1つの文章にまとめることは大変だと思います。
「○○のすべて」など、複数の執筆者が書いている本では、同じ本の中でも全く正反対のことが書いてあったりして、何の予備知識もない一般読者が読むと混乱してしまうのではないかと思われるケースもありますね。やはり、執筆者がある程度の方向性を共有しつつ書かれたものの方が、読者は安心して読めるということは言えるでしょうね。
それぞれ独自の考え方を持っている複数の執筆者が、一定の意見共有ができるまで議論するのはなかなか大変なことではあると思いますが、そのような論文集が増えてくれるといいですね。きっと、その方が個々の論文の説得力も増すでしょうから。
投稿 パルティアホースカラー | 2007年11月17日 (土) 22時07分