『長州戦争と徳川将軍』の書評いろいろ
久住真也氏の著書『長州戦争と徳川将軍‐幕末期畿内の政治空間‐』(岩田書院)が刊行されて、もう2年になります。幕末政治史において、西南雄藩に比べて幕府勢力の研究が遅れていることは従来から指摘されていますが、久住氏の著書は、その幕府勢力の動向を詳しく分析した、貴重な研究書です。幕末政治史研究において、重要な研究だと言えるでしょう。
その久住氏の著書も刊行されて2年経つということで、学術誌にも書評がいくつか掲載されています。私が現段階で知っている最新の書評は、家近良樹氏が書いたもので、『歴史評論』第689号(今年9月号)に掲載されています。
家近氏は久住氏の著書の長所として、遅れている幕府勢力の研究として価値がある点、先行研究を的確に把握・批判している点、研究書とは思えぬほど明快な叙述になっている点、多くの史料が紹介されている点などなどを挙げ、高い評価を与えています。
一方で、久住氏の論が原口清氏の影響を強く受けている点(久住氏自身も著書の中で自ら述べていることです)が家近氏は気になったと述べた上で、率直な感想として、まるで原口清氏が書いた本であるかのように感じたとも述べています。家近氏は、原口清氏がもっと若ければ、久住氏の著書と同じようなものを書いたのではないかと感じたほどだそうです。そのような率直な感想は、久住氏のさらなる研究に期待して、あえて記したそうです。
久住氏は『長州戦争と徳川将軍』の冒頭で、一会桑権力の研究史を詳しく紹介していますが、家近氏は一会桑の分析で有名な研究者ですので、それだけに家近氏の書評は面白かったです。
そのほか、家近氏と同じく一会桑を分析した論文がある白石烈氏も、久住真也『長州戦争と徳川将軍』の書評を書いています。『関東近世史研究』第62号(今年7月号)に掲載されているものです。白石氏は久住氏の著書を、「何といってもその緻密な政局分析の量の多さには驚かされる」とまで述べて、高く評価しています。
白石烈氏の書評は、幕末史の最新の研究成果を必要に応じて紹介しながら進展し、文章量も多いので、結構読み応えがあります。例えば、後藤致人氏の「孝明新政府」論や、ジョン・ブリーン氏の「孝明政権」論を紹介しながら、書評が展開されているのです。
家近良樹氏の書評(『歴史評論』689号)と白石烈氏の書評(『関東近世史研究』62号)のほかには、以下の書評があります。
・星野尚文氏の書評…『地方史研究』第322号(2006年8月号)に掲載
・奈良勝司氏の書評…『日本史研究』第536号(2007年4月号)に掲載
ちなみに、白石烈氏の書評と星野尚文氏の書評は、岩田書院のホームページで読むことができます。
もしよろしければ、下記をクリックしてください。
人気blogランキングへ
| 固定リンク
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/128116/16572555
この記事へのトラックバック一覧です: 『長州戦争と徳川将軍』の書評いろいろ:



コメント
お久しぶりです。
来栖です。
岩田書院HPの書評、早速、読んできました。
教えていただかなければ、知らなかったかも…、です。
ありがとうございます。
家近氏の書評は、後々、読んでみようと思ってます。
しかし、この久住氏の本が出た時、幕末幕府研究もここまで来たか!と思ったのを覚えていますが、その後、各氏の著述を読むにつけ、久住氏のあの本は一つのエポックだったな~と思う次第です。勿論、久住本の前には、家近氏の業績が(もっと言えば原口氏の業績も)燦然と輝いているわけではありますが・・・。
私のように新選組好きな人間からすると、久住氏や家近氏、あるいは白石氏や奈良氏の研究というのは、新選組の諸史料を読んでいて「?」となった部分を解くヒントを与えてくれる貴重な研究でして、実際、各氏の論文・著作を読んで「なるほど。そういうことだったのか!?」と理解できたことも多いわけです。
例えば、白石氏の書評では、長州戦争と将軍の畿内滞在の主従について指摘がありましたが、将軍の畿内滞在については、近藤勇も浪士組上洛頃に既に主張していたことが確認出来ますし、この問題が浪士・草莽の輩にとっても非常に大きなトピックであったことが判ります。
しかし、将軍の畿内滞在の重要性が理解出来ないと、近藤の主張が何を意味するのかが新選組ファンにも理解出来ないということになります。
すったもんだのあげく現実となった将軍の畿内滞在ですが、そのすったもんだの内情を知ることによって、新選組の立ち位置が見えてくるわけで、一見、直接関係がなさそうな事象が、新選組を解明するのに役立つという好例であると思うのです。まあ、あくまで一新選組愛好者として見れば・・・の話ですが。(苦笑)
しかし、アカデミズムの研究が幕末アイドル(新選組)の研究にそれなりの影響力を持つようになった昨今では、松浦玲著の岩波新書の様なダイレクトなものでなくても、久住氏の著作の様な学術ジャンルのものでさえ、市井の歴史オタクや幕末アイドルファンにチェックされるという事態になったわけです。
家近氏が指摘されたという「明快な叙述」は、上記の様な状況では歓迎されることであり、それは、今後、フィクション信奉者の多い歴オタや幕末アイドルファン達の洗脳を解く鍵に成り得るのではないかと期待するところです。
そういった意味では、久住氏には、更に平易な文章で新書なんかを出してもらえると、市井のオタクやファンにとってはとっつき易いだろうな~と思います。
投稿 来栖ムツキ | 2007年10月16日 (火) 01時03分
>来栖ムツキさん
コメント、ありがとうございます。
岩田書院は久住さんの著書に限らず、各種雑誌に掲載された書評をHPに転載してくれる
ので、結構重宝します。また機会があれば、ぜひ利用してみてください。
久住氏の著書が出たとき、「幕末幕府研究もここまで来たか」という気持ちを、私も抱
きましたね。一昔前なら、幕末政治史における幕府の動向など、あんなに実証的に深い
分析は行われませんでしたからね。久住氏が原口清氏や家近良樹氏の恩恵を受けている
としても、それでも貴重な研究書だということに変わりありませんよね。
私は来栖ムツキさんがよく主張されている、新選組は幕府内の一組織だという指摘に賛
同いたしますので、久住氏ほかの幕府研究が新選組を考える上で非常に有益だというご
意見にも、共感します。
新選組には直接関係のなさそうな事件・事象であっても、新選組の実像を追い求める上
で役立つこともあると思います。「将軍の畿内滞在」問題の状況次第では、新選組や近
藤勇の身の処し方も結構変わっていたのではないかとも思います。
新選組や近藤勇は幕末政局の中で活躍していたわけで、政局の動向は陰に陽に新選組に
影響を与えたでしょうからね。「将軍の畿内滞在」が重要だということであれば、その
重要性を理解できなければ、近藤の主張の意図・意味も理解できませんよね。
そして、明快な文章を書ける研究者というのは貴重ですよね。やはり、アカデミズムで
常識となっていることも、一般の歴史ファンには浸透しておらず、いまだに小説に描か
れていることを史実・実像として認識している人も多いと思います。もちろん、そうで
はない人も増えてきていると思いますから、そこで久住氏のような方が学術書並みの高
いクオリティーを保ったまま新書などの一般書を書いてくれれば、さらに良い状況にな
ってくれそうですね。
投稿 パルティアホースカラー | 2007年10月16日 (火) 20時30分