新選組にも関連のある、多摩地域・多摩出身者の近代史
新選組に多少なりとも興味を持つ人(好きかどうかは問いません)は、日本にどれぐらい存在するでしょうか。小説やドラマで描かれた新選組だけしか知らないというタイプの人まで含めると、かなりの数(それこそ星の数ぐらい)の人間が新選組に興味を持っていると言えそうです。一応、私もその端くれだと自認しております。私は特に、幕末政治史の中の新選組に興味を持っている人間です。ですから、新選組を歴史学的に分析した研究文献などが大好きです。
今、新選組に興味を持っている人々に向かって、新選組の中核メンバー(例えば近藤勇・土方歳三・沖田総司など)にとって多摩は重要な意味を持つ地域だったと述べたら、どうなるでしょうか。そんなに異論は出ないと思います。近藤勇や土方歳三は多摩の出身ですし、彼らが所属していた試衛館は、多摩に多くの門人を抱えていましたから。新選組の中核メンバーと多摩の関連性が強いことは、概ね認めていただけるでしょう。
さて、幕末維新史・新選組の研究文献に興味があって、新選組と多摩の結び付きの強さを重視する私は、少しだけですが新選組に触れつつ、幕末史に新たな論点を提示しながら多摩地域の近代史を論じている論文集に、強い興味を抱いています。そんな文献が、下記(赤文字)の通り、あるのです。
松尾正人編『近代日本の形成と地域社会‐多摩の政治と文化‐』(岩田書院、2006年)
上記の論文集は、昨年5月に刊行されたもの。編者の松尾正人氏は中央大学の教授で、『廃藩置県の研究』(吉川弘文館、2001年)などの著書がある、著名な日本近代史研究者です。上記の『近代日本の形成と地域社会』という論文集は、松尾氏が『武蔵村山市史』の編纂に携わった際、そのときには論じ切れなかった問題(例えば、武蔵村山市だけではなく多摩地域全体を見通して考える必要がある問題など)があったため、それを他の研究者と協力して、一気に1冊の論文集にまとめたものだそうです。興味深い論文が多数収録されています。その内容を、以下で少しだけ紹介します。
私が最も興味を持っている部分で言えば、やはり幕末維新史。『近代日本の形成と地域社会』は、第一部を「幕末維新の動乱と多摩」と題して、私の欲求を満たしてくれます。その第一部には、以下の三本の論文が収録されています。
・藤田英昭「八王子出身の幕末志士川村恵十郎についての一考察」
・松尾正人「多摩の戊辰戦争-仁義隊を中心に-」
・保谷徹「免許銃・所持銃・拝借銃ノート-明治初年の鉄砲改めと国産「ライフル」-」
新選組との関連で言えば、特に藤田英昭氏と松尾正人氏の論文が興味深いところです。まず、藤田氏の論文から紹介してみましょう。
藤田氏が主題としている「川村恵十郎」とは、幕末には一橋家の家臣および幕臣として徳川慶喜の下に仕え、明治以後は新政府の一員として活動した人物。川村正平あるいは川村光豁などと呼ばれたりもします。
藤田氏によれば、国立国会図書館の憲政資料室に、その川村による「川村正平文書」という史料が所蔵されているそうです。その文書中には、意見書や書簡などが795点も残されていて、それにもかかわらず、従来の幕末維新史研究では全く活用されてこなかったとのこと。何とも勿体ないことです。藤田氏は、その「川村正平文書」を活用して、川村恵十郎と幕末史について分析しています。
「川村正平文書」が従来の幕末史研究で活用されてこなかったとは言え、川村が幕末政局で興味深い動きをしていることは指摘されていました。例えば大久保利謙氏は、川村が慶応2年に岩倉具視を訪問して、かなり密接に接触していることを指摘しています(大久保利謙『岩倉具視』増補版、中公新書、1990年、155~156ページ)。また、宮地正人氏は、川村と肥後藩京都留守居役・上田久兵衛の密接な交流を指摘しています(宮地正人編『幕末京都の政局と朝廷』名著刊行会、2002年を参照)。
そこに、「川村正平文書」の分析を加えることによって、藤田氏は幕末史に新たな論点を提示しようとしています。川村は一橋家の家臣だったので、新選組と同様に、いわゆる一会桑権力の構成員でした。従来は会津藩の史料を活用して分析されてきた一会桑権力の動向を、「川村正平文書」を活用することによって、一橋家の側から考察することができるのではないかというのが、藤田氏の意見です。興味深い意見だと思います。
新選組との関連で言えば、藤田氏は近藤勇の「志大略相認書」を引用して、川村と新選組の攘夷論を比較するという試みをしています。そのほか、藤田氏は論文中で、宮地正人『歴史のなかの新選組』(岩波書店、2004年)や、白石烈「諸藩周旋方と新選組」(『歴史読本』第49巻第3号、2004年)などの新選組研究の成果にも言及しています。新選組についての研究が、幕末政治史の研究にも役立っているようで、何だか嬉しかったです。
ともあれ、新選組の中核メンバーと同じ多摩地域の出身で、新選組と同様に一会桑権力の構成員だった川村恵十郎についての藤田氏の論文は、興味深い論点を色々と含んでいるようでした。
次に、松尾正人氏の論文。「仁義隊」とは、旧幕府脱走兵などで構成され、多摩方面で活動した部隊だそうです。松尾氏によれば、仁義隊を本格的に取り上げたのは松尾氏の論文が最初だとのことで、それだけでも貴重ですね。なおかつ、時期・場所の関係から、近藤勇(大久保剛)が率いていた甲陽鎮撫隊や、上野彰義隊への言及もあります。
また、松尾氏も論文の中で谷春雄・林栄太郎『新選組隊士遺聞』(新人物往来社、1973年)という文献から引用するなど、新選組史料・研究を活用している感じです。その意味で、松尾氏の論文も、新選組(特に甲陽鎮撫隊などの時期)に興味のある人には、興味深い内容を備えているのではないでしょうか。
『近代日本の形成と地域社会』という論文集には、そのほかにも興味深い論文が多数収録されていますが、あとは岩田書院オフィシャルHPのコチラのページを見ていただければ幸いです。詳しい目次と収録論文のタイトルを確認できます。『近代日本の形成と地域社会』は、多摩の近現代史を考察する上で、重要な文献になることでしょう。
また、そのほかの新選組関連文献に興味のある方は、私が書いた下記の過去記事をご覧いただければ幸いです。
2006年にこのブログで言及・紹介した新選組関連文献リスト-新年の挨拶を兼ねて-
もしよろしければ、下記をクリックしてください。
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コメント
興味深い白石烈とかすること
内蔵太たちが、武蔵村山とかをブログしたかったの♪
投稿: BlogPetの内蔵太 | 2007年1月13日 (土) 12時44分
どうも、来栖です。
またまた、ナイスな情報をありがとうございます!
しかし、岩田書院・・・。久住真也氏の著書の時も思ったのですが、一般人がこずかいで買うには中々覚悟のいる値段なんですよね…。(涙)
それはさておき、藤田氏と松尾氏の論文、大変興味があります。特に、藤田論文は川村恵十郎ですかっ!?実は、私も自分のブログで過去、川村に触れたことがあるのです。↓
http://mkuru.blog.shinobi.jp/Entry/45/
川村の名前は、色々なところで結構見かけますね。慶喜関係や渋沢栄一関係は当然として、箱石大氏の論文などでも見かけた覚えがあります。新選組愛好者的には、新選組に関する貴重な史料である『新撰組往時実戦譚書』を記した川村三郎の関係者という印象も強いです。
しかし、その様な文書を残していたとは初耳でした。まだまだ探せば、多摩関係もいろいろ出てきそうですね。新選組という「朝敵」を輩出した土地ということで、存在をアピールしてこなかった文書類もあるかもしれません。しかし今、逆に新選組というファクターによって、多摩に光が当っているのは間違いなさそうです。
是非読んでみるつもりです。
投稿: 来栖ムツキ | 2007年1月13日 (土) 22時25分
>来栖ムツキさん
コメント、ありがとうございます。
岩田書院の本は安くないですよね。仕方ないことだとは思いますが。私も資金が潤沢にあれば購入しますが、今はそうもいかない状態です。
そう言えば、来栖ムツキさんは川村についてブログで書かれていましたね。川村は論文でメインとして扱われることはほとんどありませんが、名前はよく出てくる人物なんですよね。
川村の史料は国会図書館に所蔵されているそうですが、藤田氏によれば今までの研究では活用されてこなかったそうです。それを紹介したことだけでも、藤田氏の論文は貴重でしょうね。
藤田氏の論文も松尾氏の論文も興味深いものなので、一読の価値はあると思います。
投稿: パルティアホースカラー | 2007年1月13日 (土) 23時22分