「戊辰戦争への道」…佐々木克氏の論文
『戊辰戦争』(中公新書、1977年)という著書がある歴史家の佐々木克氏(京都大学名誉教授)には、「戊辰戦争への道‐幕末の国家的課題をめぐって‐」(『人文学報』第83号、2000年)という論文もあります。この論文が掲載されている『人文学報』とは、京都大学人文科学研究所が毎年発行している紀要です。まずは、佐々木氏の論文の章立てを以下に記しておきます(緑色の文字の部分)。
はじめに‐幕末からの視点がなぜ必要なのか‐
1.三つの重要な国家的課題
①「人心の一致について」
②合議体制について
2.国是をめぐる対立
3.「内乱」をめぐって
4.「公武合体」の挫折
5.長州征討と三つの課題
6.将軍慶喜の排除と討幕戦争
おわりに‐五ヵ条の誓文と国是‐
…以上が、佐々木克「戊辰戦争への道」の章立てです。この論文の目的は、佐々木氏の言葉を借りれば、「戊辰戦争はなぜ起こったのか,またはなぜこの国内戦争が起こらざるを得なかったのか,このような素朴な問題点を,幕末の政治過程のなかから読み解いてみよう」ということになります。
そして、この論文には重要な分析視角があります。それは、佐々木氏が、「従来の戊辰戦争の研究も、主として近代史の研究者により,近代史の問題として論じられてきた。戊辰戦争の前史として述べられるのも,せいぜい大政奉還からである。しかしごく普通に考えてみても,戊辰戦争は幕末政治の最終段階で起った戦争であるのだから,幕末史の問題であることも自明のことである」と述べていることからもわかるように、戊辰戦争が起こった理由をあくまで幕末政治史の分析を通じて解明しようとしている点です。
佐々木氏は、「戊辰戦争を考え研究する際には,幕末の政治過程をふまえた,戊辰戦争を幕末からみる視点が必要である」という思いから、戊辰戦争が起きた理由をあれこれと論じていらっしゃいます。したがって、「戊辰戦争への道」という論文は、戊辰戦争そのものではなく幕末政治史を論じた内容になっています。戊辰戦争そのものについて詳しく知りたい方は、冒頭で紹介した佐々木氏の著書『戊辰戦争』を読むといいでしょう。
ともあれ、戊辰戦争を考える上で幕末史を視野に入れなければならないとする佐々木氏の意見には賛成です。そもそも、前史が大事なのは何も戊辰戦争だけではないでしょう。例えば、明智光秀が本能寺の変を起こした理由を考察するとき、光秀と織田信長のそれ以前の関係、つまり前史を考えなければ解明できるはずがありません。
佐々木克氏の「戊辰戦争への道」という論文は、全部で17ページという短いもので、しかも佐々木氏は一般向け書籍を多く執筆しているため、読みやすいのが特徴です。
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コメント
佐々木克の『戊辰戦争』は名著ですね。
どうも戊辰役は、あまりにも大袈裟かつその効果について過大評価され過ぎであると思っていた頃に読んだので、的確な解釈に非常に納得させられたのを覚えています。
ただし、戊辰戦争という事象に対しては、まだまだ研究できる余地がたくさんあると思っています。なので、佐々木克の著作を超えるものがそろそろ出るだろうなあ・・・と予測しています。
投稿 来栖ムツキ | 2005年10月18日 (火) 23時02分
>来栖ムツキさん
こちらにもコメントありがとうございます。
佐々木さんの『戊辰戦争』は好著ですよね。読みやすいですし。
最近は本格的な戊辰戦争研究本はあまり出ていませんね。確かに、そろそろ新しいものが出てきてもいいころだと思います。
投稿 パルティアホースカラー | 2005年10月19日 (水) 22時45分
私もその本は読みました。最後のまとめにおいて原敬の演説を引用しているところが良かったです。
短命に終わったとはいえ、奥州政権がミニ幕府のような構造があったと推察されるところも興味深い。
慶喜が強力なリーダーシップを発揮していたら、たぶん、王政復古の時点で薩長は京都を追い出されていたに違いない。彼我の兵力差からいって勝ち目はまずなかったのに、一か八かの勝負に打って出た薩長指導者の意思の力が、近代日本を作ったのだと思います。
投稿 Inoue | 2005年10月20日 (木) 00時57分
>Inoueさん
コメント、ありがとうございます。あの本は確かに、最後に東北出身の原敬の言葉を引用していましたね。
薩長指導者は強烈な意志をもって王政復古を達成したのは間違いないでしょうね。そうでなければ、幕府と対決しようとは思わないでしょうね。
投稿 パルティアホースカラー | 2005年10月20日 (木) 20時34分